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「痛みの引き金を解き放つ。トリガーポイントの生理学と、私たちがたどり着いた多角的アプローチ」

トリガーポイントの解説記事への画像。
〜細胞レベルのエネルギー危機を救い、慢性的な痛みから卒業するために〜

トリガーポイントとは、筋繊維の中に形成された高感受性の収縮結節であり、「痛みの引き金(トリガー)」となる部位のことです。 医学的には「筋筋膜性疼痛症候群(MPS)」の根源として扱われます。単なる「コリ」とは異なり、その場所を圧迫すると別の離れた場所にまで痛みが響く**「関連痛」**を引き起こすのが最大の特徴です。

目次

発生のメカニズム:エネルギー・クライシス

なぜ、特定の部位が「トリガー(引き金)」化するのか。そのプロセスは細胞レベルで進行します。
現在、最も有力な説はトラベルとシモンズが提唱した「統合トリガーポイント仮説」です。

  • 微細損傷と収縮: 筋肉への過負荷や反復動作により、筋細胞内の筋小胞体が損傷し、カルシウムイオン(Ca²⁺)が漏れ出します。
  • エネルギー危機: カルシウムイオン(Ca²⁺)の存在により、意識とは無関係に筋肉が持続的に収縮します。この収縮にはエネルギーが必要ですが、「スイッチが入りっぱなしなのに、オフにするための電池(エネルギー)が切れている」パニック状態です。収縮自体が毛細血管を圧迫して血流を止める(虚血)ため、酸素や栄養が枯渇します。
  • 致痛物質の蓄積: 代謝産物(ブラジキニン、プロスタグランジン等)が排出されずに蓄積し、神経を過敏にさせ、さらなる収縮を招くという**「負の悪循環」**が完成します。

臨床的特徴:なぜ「別の場所」が痛むのか

トリガーポイントの最大の特徴は、**関連痛(Referred Pain)**です。最も厄介な点は、「原因箇所と痛む箇所が一致しない」ことです。

  • 神経の混線(収束): 痛みの信号が脊髄に入る際、別の部位からの神経と同じルートを通るため、脳が「腕が痛い(本当は肩の筋肉が原因)」といった勘違いを起こします。脳は「より感覚が鋭い部位(例:手先や皮膚に近い場所)」からの痛みだと誤認する傾向があります。これが、深い場所にある原因筋とは別の場所に痛みを感じる理由です。
  • 索状帯(Taut Band): 触診すると、筋肉の中にピンと張ったロープ状の硬いしこり(索状帯)が確認できます。
  • 局所単収縮(LTR): 特徴的な反応として、鍼や強い圧迫を加えた際に筋肉が「ピクッ」と不随意に動く現象が見られます。

例: 肩の筋肉(棘下筋)にトリガーポイントがあると、肩ではなく腕の先や指に痛みやしびれを感じることがあります。

例: お尻の筋肉(小殿筋)にあると、足全体に痛みが出て、坐骨神経痛と間違われることもあります。

一般的な症状

  • 鈍く、重苦しい痛み
  • 可動域の制限(筋肉が硬くて伸びない)
  • 筋力の低下(痛みへの防御反応)
  • しびれ感や自律神経症状(発汗、めまいなど)

分類と評価

臨床現場では、その活性度によって以下のように分類されます。

分類自覚症状身体的特徴
活性型 (Active)常に痛みを感じる。圧迫すると、特有の関連痛が再現される。
潜在型 (Latent)普段は痛くない。押すと痛い(圧痛)。可動域の制限や筋力低下の原因。

治療とアプローチの現代的視点

現在、トリガーポイントへの介入は「筋肉」だけでなく、それを包む**「筋膜(Fascia)」**へのアプローチが主流です。

  1. 物理的介入(虚血性圧迫・手技): 持続的に圧迫することで、意図的に血流を一度遮断します。圧を抜いた瞬間に新しい血液が流れ込む「リバウンド現象」を利用して、蓄積した致痛物質を洗い流します。
  2. ハイドロリリース(筋膜リリース注射): エコー(超音波)で筋肉を確認しながら、生理食塩水等を注入して癒着した組織を物理的に剥がします。
  3. トリガーポイント注射:医師が局所麻酔薬などを直接ポイントに注射する。
  4. ドライニードリング(鍼治療): (詳細は後述)
  5. 筋膜リリース:フォームローラーなどを使って、筋肉を包む「筋膜」ごとほぐす。

セルフケアの実践アドバイス

ご自身でケアする際は、以下の「30-90ルール」を意識してください。

  • ターゲット: 索状帯(コリコリした筋)の中の、最も痛みが響く点を探します。
  • 圧迫: 指やテニスボールを使い、痛気持ちいい強さで30秒から90秒持続的に圧迫します。
  • リリース: ゆっくりと圧を抜き、周辺のストレッチを行うことで、再灌流した血液を筋肉全体に巡らせます。

注意: 強く揉みすぎると筋肉を傷つけ、逆効果(揉み返し)になるため、「静止して圧を加える」ことがポイントです。

主要な身体部位別の解説。

用語解説
  • 起始::筋肉の始まりの場所。一般的に、体幹に近い方の骨に付着し、動きが少ない(固定される側)。
  • 停止::筋肉の終わりの場所。一般的に、体幹から遠い方(手足の指先など)の骨に付着し、収縮時に大きく動く(引っ張られる側)。
  • 作用::筋肉が収縮することで、停止部が起始部に向かって引き寄せられ、関節が動くこと(例:腕を曲げる、足を伸ばすなど)。 
  • TrP:トリガーポイントの略

頭部・頸部:胸鎖乳突筋 (SCM)

「自律神経の乱れやめまいの陰の主役」

  • 起始: 胸骨柄(胸の真ん中の骨)と鎖骨の内側。
  • 停止: 耳の後ろにある骨の突起(乳様突起)。
  • 作用(イメージ): 「顔を横に向ける」「首を前に曲げる(頷く)」動作。
  • TrPの特徴: ここにあるTrPは、筋肉自体よりも「目の奥の痛み」「耳鳴り」「めまい」「前頭部の頭痛」といった関連症状を引き起こします。

背部:肩甲挙筋 (Levator Scapulae)

「しつこい寝違えと肩こりの元」

  • 起始: 第1〜第4頸椎(首の骨)の横突起。
  • 停止: 肩甲骨の上角(上の角)。
  • 作用(イメージ): 「肩をすくめる」「首を横に傾ける」動作。
  • TrPの特徴: 肩甲骨の内側の角に強い痛みが出ます。首を回そうとすると「ロック」がかかったような鋭い痛みを感じるのが特徴です。

腰部:腰方形筋 (Quadratus Lumborum)

「ギックリ腰と深部の重だるさの正体」

  • 起始: 骨盤の上縁(腸骨稜)。
  • 停止: 第12肋骨と第1〜第4腰椎の横突起。
  • 作用(イメージ): 「体を横に倒す」「骨盤を引き上げる(片足立ちの時など)」動作。
  • TrPの特徴:腰の深部に「鉛が詰まったような」重い痛みを出します。咳やくしゃみで激痛が走る場合、この筋肉のTrPが関与していることが多いです。

臀部:小殿筋 (Gluteus Minimus)

「偽坐骨神経痛のトリガー」

  • 起始: 骨盤の外側面(お尻の横)。
  • 停止: 太ももの骨の外側の突起(大転子)。
  • 作用(イメージ): 「足を外に開く」「歩行時に骨盤を安定させる」動作。
  • TrPの特徴: お尻から太もも、ふくらはぎの横まで痛みとしびれを飛ばします。「坐骨神経痛」と誤診されやすい代表的なポイントです。

上肢:回外筋・指伸筋群

「テニス肘・デスクワーカーの腕の重だるさ」

  • 起始・停止: 肘の外側から前腕、指の骨へ。
  • 作用(イメージ): 「手首を反らす」「ドアノブを回す」動作。
  • TrPの特徴: 肘の外側(外側上顆)に痛みが出ます。握力が低下し、物を持った時に落としそうになる感覚を伴います。

下肢:腓腹筋 (Gastrocnemius)

「足がつる・冷え・むくみの引き金」

  • 起始: 大腿骨の下端(膝の裏の上)。
  • 停止: アキレス腱となり踵(かかと)の骨。
  • 作用(イメージ): 「つま先立ちをする」「地面を蹴る」動作。
  • TrPの特徴: 足の裏のアーチや膝の裏に関連痛を出します。夜間のこむら返りの原因の多くは、この筋肉の潜在性TrPです。

多角的アプローチによる解決への道筋(専門解説)

トリガーポイントの解消には、単一の手法だけでなく、組織の層(レイヤー)に応じた複合的な介入が効果的です。

生理学的メカニズムと臨床的な手技の極意に基づき、さらに深く専門的に解説します。

トリガーポイント(TrP)の解消は、単に「筋肉を揉む」ことではなく、**「化学的環境の改善」「神経系のリセット」「構造的再統合」**という3つのフェーズを統合的に進めるプロセスです。

鍼灸による神経生理学的介入:局所単収縮と軸索反射

鍼灸、特にトリガーポイント鍼療法やドライニードリングは、最も深部かつピンポイントにTrPへ干渉できる手法です。手では届かない深層筋への唯一の物理的アクセスとなります。

用語解説

鍼灸における「ドライニードリング(Dry Needling, DN)」とは、西洋医学的な解剖学・生理学に基づいて、筋肉や筋膜の「コリ(トリガーポイント)」を直接刺激する治療法のことです。

「ドライ」という名称は、注射器で薬液を注入する「ウェット(Wet)」な処置に対して、**「薬液を使わず、鍼(はり)だけで施術する」**という意味から名付けられました。

  • 局所単収縮(LTR)の誘発とリセット: 鍼が索状帯(Taut Band)の核心部に触れると、脊髄反射を介した「ピクッ」という不随意収縮(LTR)が起こります。これにより、持続的な短縮状態にあった筋節(サルコメア)が強制的に引き離され、異常なアセチルコリンの放出が停止。筋収縮のメカニズムが物理的・電気的にリセットされます。
  • 軸索反射(Axon Reflex)による血管拡張: 刺鍼刺激は感覚神経末端からCGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)やP物質などの神経ペプチドを放出させます。これが強力な血管拡張を引き起こし、TrP周辺の「致痛物質のスープ(ブラジキニン、セロトニン、H+など)」を洗い流し、酸素供給を再開させます。

指圧・マッサージによる代謝的介入:チキソトロピーと虚血性圧迫

徒手療法は、組織の「流動性」と「代謝」を回復させることに特化しています。

  • 筋膜のチキソトロピー(Thixotropy)特性の利用: 筋膜(Fascia)は、動かさないとゲル状に固まり、圧や熱を加えるとゾル状(流動体)に変化する性質があります。持続的な指圧やリズミカルなマッサージは、高粘度化したヒアルロン酸を溶解させ、組織間の滑走性を回復させます。
  • 虚血性圧迫の微細メカニズム: TrPに対して30~90秒間の持続圧迫を加えることで、意図的に局所的な虚血を作ります。圧迫を解除した際、**「反応性充血」**が起こり、通常の血流の数倍の血液が組織に流れ込みます。これにより、慢性的な酸欠状態にあった細胞に一気に栄養を送り込み、エネルギー危機を解消します。触診によって「生きた反応」を捉えながら、中枢神経系へ「緩んで良い」という信号を送ります。

オステオパシーによる構造的・中枢的介入:相反抑制とバイオテンセグリティ

用語解説

バイオテンセグリティ(張力統合構造): 人体を「骨という圧縮材」と「筋膜という張力材」がバランスを取り合う構造体として捉える考え方。

オステオパシーは、TrPを単なる局所の問題ではなく、全身の「膜の連続性」と「神経の過敏性」の問題として捉えます。

  • マッスルエナジー・テクニック(MET)と相反抑制: 「肘を曲げる筋肉を緩めるために、あえて軽く肘を曲げる力を出してもらう」といった、患者の等尺性収縮を利用します。**相反抑制(Reciprocal Inhibition)**という神経生理反射を利用し、主動作筋を収縮させることで拮抗筋(TrPがある筋)を強制的に弛緩させる、極めて低刺激で安全な手法です。
  • カウンターストレイン(中枢リセット): 筋肉を最も弛緩するポジション(楽な姿勢)で90秒間保持します。これにより、異常な信号を出し続けている**筋紡錘(プロプリオセプター)**の感度設定をリセット(再設定)し、脳が「この筋肉はもう緊張しなくて良い」と判断するように導きます。
  • バイオテンセグリティ(張力統合構造)の復元: 人体を一繋ぎのテントの膜のように捉え、足首の歪みが腰のTrPを作っている場合、遠隔部位から張力を調整し、特定の筋肉にかかり続けている物理的ストレスを構造的に取り除きます。

専門的アドバイス:解決への鍵は「中枢」へのアプローチ

長期化したトリガーポイントは、もはや筋肉だけの問題ではなく、**脊髄や脳の神経回路が「痛み」を記憶してしまっている状態(中枢性感作)**にあります。

痛みが慢性化すると、脳はわずかな刺激でも「激痛」と判断するようになります。そのため、無理な力で揉みほぐすことは、脳に「攻撃されている」と判断させ、逆効果(防御的収縮)を招く恐れがあります。

「局所の物理的リセット(鍼灸)」×「循環の回復(マッサージ)」×「神経系の調律(オステオパシー)」

この「多角的な対話」こそが、脳の警戒を解き、難治性の痛みから解放されるための最短ルートなのです。

知らずに悪化させている?トリガーポイントを作る「NG習慣」

トリガーポイントは、日々の何気ない動作の中で「エネルギー危機」の種を蒔いています。以下の習慣に心当たりはありませんか?

  • 「長時間同じ姿勢」で固まる: 筋肉が動かないとポンプ作用が働かず、血流が低下します。30分に一度は姿勢を変えないと、筋膜の粘度が上がり、**チキソトロピー(ゲル化)**が進行します。
  • 「冷え」を放置する: 寒さによる血管収縮は、ダイレクトに虚血(酸欠)を招きます。特に首元や足首の冷えは、胸鎖乳突筋や腓腹筋のTrPを活性化させるトリガーになります。
  • 「浅い呼吸」: ストレスや猫背で呼吸が浅くなると、斜角筋などの呼吸補助筋が過剰に働き、頭痛や腕のしびれの原因となるTrPが形成されます。
  • 「痛みを我慢してストレッチ」: TrPがある状態で無理に引き伸ばすと、脳は「筋肉がちぎれる!」と判断して逆に縮まろうとします(伸張反射)。これが症状を悪化させる原因です。

専門家からのメッセージ:解決への道筋を確かなものにするために

この記事を通じて理解していただいた通り、トリガーポイントは単なる「コリ」ではなく、「細胞レベルのエネルギーパニック」と「脳の誤認識」が複雑に絡み合った状態です。

なぜ自己流では限界があるのか

セルフケアは「維持」には最適ですが、一度完成してしまった「負の循環(エネルギー危機)」を自力で打破するのは容易ではありません。なぜなら、自分自身で押す刺激は、脳が「予測できる刺激」として防御反応を解きにくいからです。

解決のための3つのステップ(再確認)

  1. 「解く」: 鍼灸やドライニードリングで、深部の核心部(索状帯)を物理的にリセットする。
  2. 「流す」: 指圧や虚血性圧迫で、蓄積した老廃物を一気に押し流し、細胞に酸素を届ける。
  3. 「再教育する」: オステオパシーや運動療法で、脳に「もう痛くない、動いていいんだ」という正しい情報を入力し、バイオテンセグリティ(全身のバランス)を整える。

最後に: 痛みは身体からの「このままでは組織が壊れる」という警告サインです。そのサインの出どころ(トリガー)を正確に見極め、多角的にアプローチすることで、長年悩まされた痛みからも解放される道が必ず見つかります。

私達は夫婦で試行錯誤しながら臨床の道を地道に歩んできました。机上の空論ではない、現場で患者様と向き合い続けて得たこの経験が、少しでもより多くの人々のお役に立てることを願っています。一期一会の良きご縁がありますように。

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