鍼灸

東洋医学的な診察の基本

望診皮膚や爪、目の色など、目で見て確認できる情報。
聞診体臭、口臭、声のトーンや大きさ、などから確認できる情報
問診問診表、質疑応答、などから確認できる情報。
切診筋腱の硬さ、圧痛、体表温度、色、脈、など接触する事で確認できる情報。
  • 入口に入ってきた時から見立ては始まっています。「予約した○○ですが」と入ってきた時の全体的な印象に始まり、表情、声のトーン、姿勢、動作などを確認していきます。
  • また問診でお話をしながら体臭や口臭、気持ちの状態も気にしています。触診では幹部の状態はもちろんのこと、脈やお腹、舌の状態、爪の状態などを確認したり、触りながら手足などの全身の体表温度や感覚に気を配ります。これらは主訴とは一見関係ないような事も含みますが全体を診る事により見える風景があるので必要と考えています。
  • 私達のような臨床家はこれらの小さな積み重ねを毎日、1年、3年、5年、10年と繰返し続ける事で心と身体の正常な状態を理解し、小さな異常を敏感に察知できるようになってきます。
  • 経験上、人が醸し出す雰囲気、オーラのようなものがあります。これらの印象も主観的ではありますが隠れた大病をみつけだすきっかけになることも少なくありません。知識と経験からくる臨床家の感のようなものです。科学的根拠(エビデンス)は大切ですが、東洋医学に身を置く臨床家にとって経験値も大切だと感じることも多いです。

私達が大切にしていること。

  • 私達は第一にご縁があり訪れてくれた方の心と身体の声を聴く事が大切だと考えています。人は肉体だけで生きているのではなく、心と身体がバランスを保ちながら相互に影響を与え合い生命の健全な維持活動を支えています。目に見える体調の変化や不調も心との密接な影響が少なからずあります。
  • 病気や症状だけに焦点をあてるのではなく「人」に焦点をあてた見立てが大切だと考えています。「身心一如」の視点を大切にしてます。
  • 東洋医学独特の判断基準により身体の状態を把握をして、ここから使用するツボや経絡を選択したり、鍼・灸・按摩・指圧・マッサージなどの手法を選択、組み合わせをして治療しています。

ここで大切なのは現代医学の知識や視点からの病態把握をする事です。必要な時には専門医による検査、診断が必要なケースも少なくないからです。自身の守備範囲を適正に、客観的に見極める事も大切と考えます。

施術例としては

  • 風邪であれば首の付け根あたりのツボ「大椎」などをよく使います。背中やお腹、手足などの全身のツボに鍼やお灸をして身体を温め発汗を促したり、自律神経の働きが良くなるように働きかけます。
  • 腰痛なども膝の裏にあるツボ「委中」などをよく使います。患部だけでなく精神的なストレスや内臓疲労、冷えなど多角的視点から全身のツボにアプローチしていきます。
  • 心の影響が強いと判断する時などは腰痛治療に頭や首、手先、足先のツボを多用します。

基本的には、「心身一如」の視点から治療する事で、結果として免疫力が向上して自分の持つ自然治癒力で治すことができると考えます。

注意点

現代において科学的診断は大切です。医師による血液検査や医療機器による各種検査で病気の確定診断をする事は重要です。未知のウィルス感染、難病、内臓疾患、がん、転移などの最悪のリスクを回避した上で鍼灸、按摩指圧マッサージ、漢方などの伝統的な医術を上手に取り入れて行くことが現代においては最善と考えます。バランスよく西洋医学と東洋医学を上手に取り入れてください。

鍼灸の効果について

腰痛や肩こりなど痛みで鍼灸を受ける方が多いので運動器の症状に有効だと思う人が多いと思います。ただ、鍼灸の効果は痛みだけではなく全身の様々な症状、疾患に効果があります。

あまり知られて無いかもしれませんが、鍼灸の効果は様々な機関で研究されています。日本国内では筑波大学、明治鍼灸大学、北里大学などが代表的です。世界ではNIH(米国、国立衛生研究所)が代表的です。WHO(世界保健機構)でも様々な症状や疾患に鍼灸療法の効果や有効性を認めています。

鍼を刺すと中枢神経系に作用してモルヒネのような役割を持ったホルモン(内因性オピオイド)が放出されます。このホルモンが痛みを脳に伝える神経経路をブロックすることが分かっています。また、神経を刺激して血行を促進する事により痛みや疲労の原因物質を老廃物として排出を促します。

自律神経の調整に効果があり、自律神経によりコントロールされている胃腸や心臓、血管などの働きを調節します。

胃酸の分泌や蠕動運動などが改善して良好なお通じも期待できます。健全な排尿、排便は必要な栄養を取り込み、不要な老廃物を身体から排出して効率的なデトックス効果を生みます。

血液、血圧、リンパの流れなど体液の循環が良くなり、心臓の働きにも良い作用を及ぼすと思われます。手足の冷えなども良い影響があります。このように全身の生命活動、恒常性の維持に良い影響があり自己免疫力を賦活させる働きも期待できます。

鍼灸の作用について

鍼の場合

鎮静作用疼痛や痙攣のような機能が亢進している時に鍼の刺激した場所の組織を活性化して痛みや痙攣を鎮めようとする作用。
興奮作用痺れや感覚麻痺、運動麻痺、内臓書記官などが機能低下してしまった状態に対して鍼の刺激で興奮させて機能回復する作用。
誘導作用患部の血流を調整する作用。直接的・間接的なものがあります。 直接的なものとしては患部に鍼を刺して血管を拡張させ患部に血液を集めることで改善する作用。 関節黄なものとしては患部から離れた健康な箇所に鍼を刺して炎症などで集まった血液を健康な部位に誘導、集めることで改善する作用。
反射作用患部や離れた部位に鍼やお灸で刺激して、元々身体に備わっている反射を利用して改善する作用。
転調作用自律神経失調やアレルギー体質などの体質の改善をする作用。
消毒作用鍼の微細な刺激が免疫作用により白血球を増加させて集まります。リンパ系を活性化する事で病的な滲出物の吸収を促して改善する作用。
免疫作用白血球を増加させて免疫機能を高める作用
防衛作用白血球などの免疫系を増加させたり身体を守る作用。

お灸の場合

  • 自律神経の働きに作用して調整。
  • ホルモンなどの内分泌に作用して調整
  • お灸による局所の小さなやけどが「ヒストトキシン」という科学物質を生み、皮膚から吸収される事により白血球が増加、免疫機能に作用して調整。
増血作用赤血球を増やして血流をよくする。
止血作用血小板の働きを良くして治癒を促進する。
強心作用白血球を増やして外敵から防御する。

お灸の起源は古くは古代中国にあり約三千年位前にはその存在があったとされます。二千年以上前の中国最古の医学書「黄帝内経」にも記述があり有名です。日本には遣唐使などによって中国から伝わったとされ、今も昔もその手法は殆ど変わらないものと思われます。

皆さんも、奥の細道に出てくる「三里に灸」は当時徒歩でしか移動手段の無かった時代に旅路での疲れを癒したとあります。また、徒然草に出てくる「四十歳以上の者は三里に灸をするとのぼせ(高血圧)を下げる」とあります。どこかで聞いたことのある方も多いのではないでしょうか。

お灸はヨモギの葉の裏の繊毛といわれる細かい毛のような部分を材料としています。経験的に生まれてきたツボを温める事により血行を良くして、自己免疫力を高める事で症状の緩和、治癒を目指す方法です。現代のように建物の密閉度が高くなく、冷暖房設備もなかった時代には大変有効な主要手段であったと思われます。

日本に伝えられたのは奈良時代に仏教とともに中国から伝わったとされます。明治に西洋医学が主流となるまでは日本の医療の主流の一つであったと思われます。

鍼灸学の資料より

一般的な注意点

  • 術後は基本的には安静にして養生を心がけ、自身の身体を労わってあげてください。
  • 当院では入浴も1時間程度あけていただければ問題ないと考えています。血行が良くなっている状態なのでいつもよりのぼせやすいかもしれませんので注意しながらゆっくりと入浴を楽しんでください。
  • まれに毛細血管などから内出血したり、紫斑が出ることがあります。自然に吸収されますので心配いりません。細心の注意を払っても防げないこともありうる事なのでご理解ください。
  • 体調により微熱、倦怠感、眠気、揉み返しのような感覚がありますが、その時はゆっくりと身体を休めてください。好転反応といわれよい反応であることが多いです。
  • 適切に施術を継続することにより、身体のエネルギー(氣)の活力、バランス、血流、水分バランス、筋腱の癒着、凝りの改善、血圧などの内科的変化など全身が変化して整ってきます。人によっては何十年と偏ってきた身体のバランスが変化して良い方向へと向かうわけですから様々な変調を感じる方もいます。当然といえばその通りなのですが、当人にしてみれば不安を感じるかも知らません。しかし視点を変えてみれば良くなってきている通過点とも言えますので頑張って戴きたいと願います。

お灸の施術も基本的には鍼と同じですが、お灸は感じる感じないにかかわらず熱を伝えるために多少のやけどを伴います。

  • 当日は入浴などでこすったりしないでください。
  • 水ぶくれなどある時はつぶさずそっとしてください。水分は自然と吸収されます。